ストーリーを重視、交渉もあるデッキ構築型ローグライクゲーム
本作は、通常の戦闘だけでなく交渉の要素も盛り込んだデッキ構築型ローグライクゲームです。本サイトでデッキ構築型のゲームはいくつか紹介していますが、そのジャンルで代表的な作品である「Slay the Spire」(以後StSと表記)と比較しながらレビューを行います。
ゲーム概要
人間だけでなく、様々な種族が生活する世界、ハヴァリア。科学的には進んでいるのですが治安はお世辞にも良いとは言えず、いわゆるサイバーパンクな世界観となっています。
主人公は最初はサル(英語名「Sal」。海外作品なので仕方ないですが、最初は皆から「サル」と呼ばれる事にちょっと違和感を覚えます)という女性なのですが、彼女は子供の頃から莫大な借金を背負わされ10年もの間強制労働をしていて、ようやく脱出できたという経歴です。
そんな彼女が自由の身になって考えた事は、賞金稼ぎとなって自分に借金を背負わせたかつての友人であり賞金首のカシオの殺害でした。最初の主人公から不穏なストーリーです。
他に軍人のルーク、名門一族の落ちこぼれスミスの二人が居ますが、解放にはある程度サルでストーリーを進める必要があります。
こんな殺伐とした世界なので、出てくる登場人物も一癖も二癖もある者ばかり。サルは賞金稼ぎとして、先輩であり今はバーテンダーのフェスを頼って仕事をこなして腕を磨き、カシオの殺害を目指します。
まずは仕事を請け負いますが、マップ画面上にクエストマークが表示されるので、それを選んでいきます。大体は二つのクエストの内どちらかを選び、それぞれ交渉かバトルを要求されます。(クエストによっては両方要求されます)
カードバトルシステムですが、StSと比較すると以下のような違いがあります。
- 戦闘と交渉の二種類が存在し、異なるデッキを使用する
- ペットや傭兵を雇う事ができ、戦闘では最大4名のパーティーとなる。ただしこれらのNPCは自分の判断で行動し、操作はできない。交渉では様々な追加効果(論戦)となる
- ダメージに幅があり、例えば「2~6ダメージ」のようにランダム性がある
- 戦闘において、主人公ごとに特別なシステムが存在する。
・サルはコンボ(蓄積したり消費する事でカードに追加効果を付与。上限なし)
・ルークはチャージ(コンボに近いが上限が存在し、別枠でオーバーチャージポイントも存在)
・スミスは精力(ターン後に体力回復)と飲酒(戦闘中に酒を飲み、空き瓶がカード化する。
空き瓶カードは様々なリソースとなる) - カードを使用したりダメージを与えたり受けたりすると「盛運」ゲージが上昇し、100%で「盛運」が使える。これはいつでも発動できる切り札のようなもの
- 戦闘においては敵は必ずしも殺す必要は無く、一定まで体力を削るとパニック状態になり降伏する(非人間の場合は逃走する)降伏した相手を助けるかとどめを刺すかは選択次第
交渉の場合、負けても交渉に失敗するだけでゲームオーバーにならない
こんな感じで少々アクセントがありますが、割とシンプルな味付けで、StSをプレイした方ならすぐに慣れるのではないかと思います。
ただし三人目の主人公、スミスだけは自傷ダメージを受ける攻撃カードが存在したり飲酒をして力を得たりと、破天荒な戦闘スタイルなので最初は戸惑うかも知れません。
交渉について補足ですが、交渉とは言っても実際はシステムの異なるカードバトルで、戦闘の時とは違う専用のデッキを使う事になります。戦闘では体力に相当する「決断力」、ガードは「冷静値」と表現され、味方に相当するものとして「論争」が存在します。
正直なところ、これは文章で説明するよりも実際に遊んでみて少しずつ把握した方が良いでしょう。二人目の主人公ルークのみ、さらに「準備完了」という特殊システムが設定されており、この辺りの仕様の習得は、それなりに時間が掛かります。
他に戦闘・交渉に共通する仕様として、カードのアップデートの仕様が経験値制になっています。使う度に経験値が貯まっていき、最大になるとアップデートできるようになります。アップデートは二種類から選べます。(初期カードは多くのアップデート候補が有るのですが、そこからランダムで二種類だけ抽出されます)
また、StSで言う所のレリックに相当する「グラフト」も存在します。StS同様、ボスを倒すとエネルギー増加のボスグラフトを入手出来たりするのですが、装備できる枠に上限があります。(サイバーパンクらしく脳内に装備する設定のようで、装備枠を広げる時は頭蓋拡張手術(!)が必要になるのでお金だけでなくHPにダメージも受けます)
良い所
人間関係に配慮も必要なゲームシステム
主人公たちは基本的に誰かの依頼で戦闘や交渉を行う事になります。もちろん報酬も魅力ですが、きちんと仕事をこなせば依頼者からも喜ばれます。本ゲームでは、それをゲームシステムとして組み込み、他のデッキ構築型ローグライクとは違う方向性を打ち出しています。
これがなかなか良いバランスで、事前に行動による好感度の変化も教えてくれるため、カードバトル以外でもどの選択が一番得なのか考えさせられることになります。
好感度は5段階となっており、好感度を最高にすると良い効果のパッシブが、最悪にすると悪い効果のパッシブが付く事になります。
基本的にはクエストで敵対行動をすると悪くなり、助けてあげると良くなるのですが、注意点として誰かを殺してしまうと、その友人の好感度が一気に最悪になります。できれば誰も殺したくないのですが、クエストによっては殺害が達成条件になっていたり、戦闘の際に降伏せず死ぬまで戦う敵も登場します。この辺も取捨選択が必要になってきます。
なお、人間キャラは全員が「殺すと貰えるカード」を所持しているので、殺す事にメリットが有るのがまた悩ましいところです。
ちなみに、バーで一緒に飲む事で好感度を上げられるのですが、好感度が最悪になってしまうと一緒に飲む事は出来ず、代わりに「怒らせる」という選択肢が出てきます。これで相手を怒らせて自分を攻撃させておいてから殺せば正当防衛となり、悪いパッシブ効果も消せてカードも手に入るという、なかなか鬼畜な行いができるようになっています。(もちろん、それによって別の誰かに敵対される可能性もありますが)
このようにクエストでは人間関係の変化にも気を配る必要があり、いくつか解決策のあるクエストでは先の事まで考えて行動を選択する必要があり、カードバトル一辺倒でない良いアクセントが産まれています。
多彩な周回要素
ローグライクゲームではプレイするごとに何らかの解放要素が有るものが多いですが、本ゲームもそれは同じです。
まず各主人公はプレイに応じてポイントを得ることができ、そのポイントが貯まる事で新しいカードセットを入手できます。
そしてそれとは別に「血気(キャラ別の通貨)」や「(全キャラ共通の通貨)」、はたまた「パークポイント(ゲーム中ずっと適用できるパッシブ効果解放用)」というポイントも得る事ができ、初期体力や初期所持金の増加や新しいカードの解放、パッシブ効果など、様々な永続強化を得ることができます。
難易度も一度クリアする事で新しい難易度が順次追加され、最大段階まで少しずつ難しくなっていきます。登場人物や各種アイテムも相当な数があり、すべて解放するにはかなりの時間が掛かる事でしょう。
他にもストーリーを省略してバトル部分に専念できる「バトルロード」や様々な条件下で戦えるデイリーミッションなどやり込み要素は膨大にありますので、システムや世界観が好みであれば、かなりの長時間遊び続けることができると思います。
カードの成長が楽しい
カードは使う度に経験値を取得しアップデートできることはお話しましたが、個人的にはこのシステムが非常に気に入っています。
この手のゲームで大抵お荷物となる初期カードも、アップデートによりデバフ効果が付与できたり、性能が高くデッキ圧縮にもなる消費(StSで言う廃棄)が付けば終盤でも十分活用で切るカードになります。
さらに、一度使うと完全消滅する破壊効果が付けば、わざわざカード削除しなくても良くなります。
このようにアップデートしたカードは戦力向上に繋がりますので、いかにカードに経験を積ませるかも考えていく必要があります。楽な戦いの時に出来るだけ戦闘を長引かせるなどして、頑張ってアップデートにこぎつけた時の達成感は同ジャンルの他のゲームには無い楽しさです。
賛否両論っぽいところ
登場人物が多すぎて覚えられない
本ゲームはストーリーにもかなり力の入った作品なのですが、あまりにも登場人物が多すぎて、毎回必ず登場する主要人物以外は覚える気になれません。
ゲーム中はいつでも人物の詳細は見られるのですが、数回クリアした程度では初見のキャラがこれでもかと出てきます。
前述の通りNPCと仲良くなることで良い効果のパッシブを得られるのですが、毎回新キャラが出てくるので仲良くなってみないとパッシブの内容が不明で、余り優先度の高くないパッシブを持つキャラにお金をかけてしまった、という事にもなりかねません。
それでも何度もプレイしていればいずれはNPC達の情報も集まってくるので最終的には問題にならないと思いますが、そこまではかなり時間が掛かりそうですし、固定キャラ以外には愛着が湧きにくいです。
一度追い詰められるとじり貧になりやすい
本ゲームは戦闘で体力がゼロになると死亡でゲームオーバーですが、交渉は命のやり取りをしているわけでは無いので、負けた場合でもゲームは続行します。
一見ありがたい仕様なのですが、その場合決断力はゼロとなってしまい、その後の交渉が出来なくなります。戦闘で勝利したりバーで酒を飲むなどで回復も出来ますがその回復量は微妙で、睡眠を取るまでは再度勝利するのは難しくなってしまいます。
一方戦闘の方は敵がパーティーを組んでいる事が多く、序盤でも一人で居るとあっという間に倒されてしまう事が多いです。そのためにはペットやNPCを傭兵として雇っておく必要があるのですが、その分のお金は序盤では厳しく、戦闘で勝てそうになければ何とか交渉で有利にしなければならない場合が結構あります。(大抵、戦闘の前に交渉で仲間に引き入れたりできる展開が発生します)
つまるところ、負けても死なないからと言って交渉で負けてしまうとその後の展開が非常に厳しくなり、結局勝ち目のない戦闘に巻き込まれてゲームオーバー、というパターンに陥ります。基本的にはすべて勝つつもりでいた方が良いでしょう。
ちなみに、交渉は即ゲームオーバーにならないせいか時間経過とともに敵の攻撃がどんどん強くなっていくので、持久戦はかなりの高難易度になります。ある程度のダメージは覚悟の上で早期決着を図った方が良いです。
イマイチに思うところ
視認性の悪い時がある(ただし、解決方法あり)
戦闘でパーティーが増えたり、交渉で論争が多くなってきた場合に、カードや他の表示と重なってパラメータが見えなくなることがあります。そのせいで敵の攻撃への対策を読み違えてしまう場合があります。
これは一応解決策があり、右スティックで対象を選択してRBボタンで詳細表示できるのですが、毎回こんな事をするのは面倒でテンポが悪くなってしまいます。携帯モードでも文字は読みやすいレベルなので、この点は少し残念に感じました。
ストーリーモードは同ジャンルのゲームに比べてテンポに難あり
ローグライクゲームは良い意味でストーリーが簡略されていてテンポよく進められるものが多いですが、本ゲームではストーリーがしっかり作られている分、何度も繰り返し遊ぶと少しテンポの悪さが気になります。
一番多いクエストのパターンは「クエスト受注→情報集め→説得で展開を有利にする→戦闘で決着」なのですが、その都度場所移動(この時、移動中にランダムでクエスト発生の可能性あり)なので、カードバトル以外の時間が結構多くなってしまいます。
ローグライクは負けたら最初からなのは当然ですが、本ゲームではやり直しが他のローグライクよりも面倒に感じました。
前述の通り、このようなイベントを排除した「バトルロード」というゲームモードも存在するのでそちらのモードメインで遊ぶという手もあるのですが、ストーリーでは新しい難易度を解放する度に特殊なイベントが追加されていくようなので、本ゲームを遊び尽くすならストーリーの方も進めていく必要があります。(例えば、周回を進めていくと主人公同士がイベントで出会ったりします)
まとめ
他のデッキ構築ゲームとは一味違う二種類のデッキ、個性的な主人公と登場人物など、このジャンルのゲームが好きな方なら問題無くお勧めできる作品です。
テキスト量もかなりの分量ですがしっかり翻訳されていて(たまに英語のままの文章があったりしますが)、全体的に大きな不満も無く丁寧に作られている印象でした。
良い所でも触れましたが、個人的にカードの経験値を増やしてアップグレードできるシステムが気に入りました。同ジャンルの他のゲームでも取り入れて欲しい要素です。
主なロード時間(演出による待ち時間含む)
計測対象 | 待ち時間 | 備考 |
---|---|---|
起動からタイトル画面まで | 約28秒 | 起動後、タイトル画面が表示されるまでの時間 メーカーロゴの表示がしばらくあった後、すぐにタイトル画面 |
ゲーム開始/ロード | 約5秒 | タイトル画面から主人公を選んでスタートするか、直近のプレイから始めた後に発生するロード |
上記の通り起動時と開始時以外にロードは発生せず、快適に遊べます。
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