異常なまでの作り込み。世界観に馴染めれば最高のSRPG
任天堂のファイアーエムブレムは、言わずとしれた「手強いシミューレション」。初代から30年以上の歴史を誇る、SRPGの代表作と言えます。執筆時点(2022/2/20)で本ゲームを舞台とした無双作品も発売が発表されたこともあり、これを機にレビューしてみたいと思います。
なお、筆者はルナティックはクリアしておりませんのでご了承ください。
ゲーム概要
戦場となるマップにプレイヤー陣営と敵陣営(場合によっては第三軍)のユニットが配置され、これらを交互に動かして勝利を収める戦略シミューレションゲームです。
このタイプのゲームは操作するユニットは将棋やチェスのコマのように無個性で、成長要素を持たず戦術面が重要となるタイプ、例えば同じ任天堂の「ファミコンウォーズ」(ちなみにこっちは「どえらいシミュレーション」とのこと)と、本作のようにRPG要素を重視した作品に大別されます。
主人公は一介の傭兵でしたが、とある学校の生徒達を成り行きから助けた事でその学校の教師に大抜擢。三つの学級の中から一つの担任となってユニットとして戦う事になる生徒達を育てて自身も含めて強くしていきます。学園ものという事で、生徒同士の友情や恋愛模様も描かれます。
ファイアーエムブレムシリーズはキャラクター同士が一緒に戦う事で次第に仲良くなり、戦闘中のステータスが上昇したり、隠し要素の解放やエンディングで関係の深い人たち同士で特別な後日談が語られたりと、シリーズの代名詞ともいえる「支援」システムが存在します。
本作はこの支援システムはもちろん、シリーズ共通の概念である「紋章」(旧シリーズでは王家の証と言う意味合いが大きかったですが、本作では特別な血統に宿る力としてストーリーの中核をなします)、また人間とは異なる種族「竜」との関りなど、シリーズの伝統を守りつつ最新作として順当な進化を遂げたと言えます。
良い所
魅力的なキャラクターと育成する楽しさ
主人公である先生自身も戦いますが、ゲーム前半の目的は授業や実戦を通してユニットである生徒たちを育成していく事になります。
生徒たちは皆それぞれバックボーンを持ち、学校に通う目的も将来の夢も様々です。ストーリーでもある程度は語られますが、とりわけ支援会話で各キャラクターの心情がより明確に語られます。
この辺の作りが非常に秀逸で、最初は得意分野やステータスを見て育成方針を考えていたキャラが、毎回出撃させてあげたいお気に入りになったり、この二人は組ませてあげよう、などキャラとして強いかどうか以外の思い入れが少しずつ出来ていき、まさに教師として少しずつ生徒と信頼を深め合っていく過程を疑似体験できます。
生徒達も本当に良いキャラばかりで愛着が湧きます。かく言う私もベルナデッタはお気に入りキャラのひとり。よくもこれだけのキャラを性格的にかぶらせる事なく個性的に作り上げたものです。
また育成の内容も多岐に渡り、キャラクターそのものに設定されている成長率に加え、選んだクラス自体の成長率も存在するので、長所をとにかく伸ばすのも良し、攻撃一辺倒にならないように防御面や回避面を補強するも良し。
剣や弓、乗馬などの各種技能にも経験値が存在し、これをレベルアップさせる事でより上位のクラスにチェンジ出来たり、スキルを習得したりします。この技能も各キャラごとに得意、不得意があり、不得意な技能でもクラスチェンジのためにある程度鍛える必要があるなど、特に高難易度では計画的な育成が必要になってきます。
幅広い難易度設定
ファイアーエムブレムでは死んだ仲間はもう生き返らない、はもう過去の話。最近ではHPが0になったキャラでも撤退扱いになるだけで済む「カジュアルモード」が搭載されています。一方、旧来の死んだら終わり(ただし本作は二部構成で、第一部中は死亡せず、第二部になった時にフェードアウトする仕様)の厳しいバランスが「クラシックモード」です。
私個人はキャラロストが嫌で旧シリーズプレイ時は仲間が死んだらリセットしてやり直していました。あまり重要でないキャラならロストしても問題無しと考える人も居ると思いますし、スリルを楽しむためにノーリセットで遊ぶ人も居たかと思います。
手強いシミュレーションとしてスタートしたシリーズですが、時代に合わせてどちらの遊び方もできるようにゲーム側で提供してくれる仕様はありがたいと思います。
また、難易度ノーマルが非常に緩い仕様で、敵が格別に弱いという意味では無く、フリーマップで無限稼ぎが出来たり各種経験値が上がりやすいなど、多少育成の方針を間違えても取り返せる難易度設定となっています。
シリーズ経験者であっても本作の育成は今までと勝手が違う事もあり、まずノーマルで好きなように育成してゲームの感覚を掴み、二週目はハード(心配なら引き継いで)から、というプレイヤーが遊ぶ上で躓かないような作りにしているのは、さすがに長く続くシリーズのノウハウが生かされているな、と感じました。
あと難易度とは違いますが、敵の攻撃範囲や攻撃予測の表示が至れり尽くせりのレベルで秀逸で、一度本作を遊んでしまうと他の同ジャンルのゲームが不親切に感じてしまうかもしれません。
賛否両論っぽいところ
ゲームありきのストーリー展開
前述のように本作は二部構成で、第一部が学校編、第二部が五年後の戦争編、と言った構成です。ゲームとして成立させるためには戦争が必要なわけで、キャラによってはそのストーリーの犠牲になってしまっている感があります。
特にエーデルガルトが級長を務める黒鷲の学級。第二部へ繋がる選択肢の中でどちらを選んでも離反してしまう生徒が発生するため、前知識なしで遊ぶと贔屓にしていた生徒が強制退場という憂き目にあうかもしれません。
また、どう頑張っても戦争の発生は止められないので、主人公は自分が受け持っていた学級だから、という理由で戦争でもその陣営で戦う事になり、「同じ学校で学んだ生徒同士で戦うなんて間違っている」という思いは無視されます。もちろん、そうしないとゲームにならないのですが。
そんなわけで、ゲームであるがゆえに多少ご都合主義なストーリー展開かな?と感じる部分はあります。他にもネタバレを含むので詳しくは言えないのですが、終盤明らかになる勢力の扱いとか。
ちなみに、発売が発表された無双は、もしかしたら三学級が和解するルートのストーリーなのでは?という予想も有りますね。だとすると、ストーリーについてはこの無双も合わせて考えるべきかもしれません。発売が楽しみですね。
FE伝統のランダム成長
これはファイアーエムブレムシリーズの初代からの伝統で、これだけは時代を経ても変わりません。レベルアップ時に設定された成長率の確率でステータスがアップするのですが、このランダム成長のために思った通りの成長をしない事があります。
さすがにこの伝統には手を入れられなかったのでしょうが、本作がキャラ育成に重きを置いている分、この仕様はちょっとちぐはぐな印象を受けます。もちろん、思ったような成長をしなかった分、別の役割をしたり他のキャラが活躍するなど、遊ぶたびに違った展開になる、という利点はあるのですが、お気に入りのキャラが二軍落ちというのは少し残念に感じてしまうことは有ります。
念のため、キャラの成長率を補正してくれるアイテムも有りますので、一軍で活躍させたいキャラに優先的に持たせることである程度は緩和できます。ただそれでもランダムはランダムです。
イマイチに思うところ
ハードの時点で人を選ぶ難易度に
難易度ノーマルは易しい部類だという話をしましたが、ハードからは一気に世界が変わります。初見では「本当にこの敵倒せるの?」と思うような敵も登場してきます。
また、ただでさえ圧倒的な物量の敵に加えて増援も当たり前のように出てきます。特に困るのが飛行ユニット。飛行ユニットは「弓に弱い」という弱点があって、プレイヤー側が使う分には細心の注意を払って運用する必要がありますが、敵軍は死を恐れず集団で特攻してきます。
飛行ユニットの中でもペガサス系は魔法防御が高く、いきなり後ろから増援が来て襲われ、後方に下げておいた魔術師クラスが攻撃も通じず一方的に蹂躙される、といういわゆる「初見殺し」が多く発生します。(これもファイアーエムブレムシリーズの伝統ではあるのですが)
ただ、熟練のシリーズ経験者(いわゆる「エムブレマー」)にとっては難易度ルナでも丁度良いくらい、むしろもっと上が欲しいみたいなのです。これだけシリーズが長く続けばプレイヤーのスキルも様々ですね。難易度設定の苦労が偲ばれます。
重厚な世界観が受け入れられないとストーリーは苦痛に
本作は独立した一本のゲームにも関わらず、そこに詰め込まれた世界観は実に重厚で、直接ゲームに関わってくる話で一番古いものが1000年前の物語です。もちろんそれ以前の歴史も存在するわけで、本気で把握するためにはどこかの国の歴史の勉強レベルの労力が必要になります。
前述の1000年前に活躍していた英雄たちの末裔が今も続いているという設定上、作中では実に様々な地域や貴族の名前が出てきます。初見ではほとんど訳が分からないのに、生徒たちの考え方や仲の良さなどにかなり重要な影響を与えています。
三つの学級を担当するゲーム性ゆえに三つの学級(正確には四ルート存在します)でそれぞれクリアしないと全貌が分からない作りになっており、かつすべてクリアしてもなお謎が残ります。この世界観が好きになれればこのあたりの情報はゲーム中だけでは無くネット上にも様々な考察が溢れているので楽しんで学べると思いますが、受け付けない場合は本作は楽しみ切れないと思います。
まとめ
シリーズを長く続けることは並大抵の事ではありません。ファイアーエムブレムシリーズも一時は売り上げが低迷し、シリーズ打ち切りの瀬戸際に立たされたこともあるそうです。それでも基本的なシステムは変わらず、現在まで続く本作。やはりその内容は実に練り込まれていて、遊び手に確かな満足感を提供してくれるでしょう。
ちょっと練られ過ぎていて気軽に遊べなくない、という弊害も多少はあるのですが、SRPG好きはもちろん、架空戦記や、歴史のifが好きな人であれば十分楽しめるのではないかと思います。
ちなみに、DLCで遊べるようになる「煤闇の章」はサイドストーリー扱いで育成要素が簡略化され、旧来のシリーズに近い感覚で遊ぶことができます。こちらは全6章と短いですが、こちらはこちらでシリーズ経験者には懐かしい感覚で遊ぶことが出来ると思います。
主なロード時間(演出による待ち時間含む)
計測対象 | 待ち時間 | 備考 |
---|---|---|
起動からタイトル画面表示 | 約24秒 | 起動後、タイトル画面が表示されるまでの時間 途中メーカーロゴなどは無し (紋章が表示されているが、これは単にロード中の演出) |
続きから始める | 30秒前後 | セーブスロットセ選択後、散策、講習などの 選択が出来るようになるまで |
カレンダーから出撃開始 | 10~10数秒 | マップの出撃選択を選択してから 戦闘マップ画面、もしくは戦闘前イベント開始まで |
次の章の開始 | 22秒 | 月が替わった時のナレーション後、 その月のカレンダーが表示されるまで |
(参考)イベント間のロード | 数秒~10秒 | 必ずしもイベントの間に入るわけでは無いので安定しないが、 ちょくちょく短めのロードが発生するので記載 修道院での階移動もこれ位 |
修道院とアビスの移動(要DLC) | 行き:22秒 帰り:28秒 | 後付けのためか、往復一分近いロードが入る 通常の散策はほとんどロードが無いので少し残念 |
ロード時間はあくまで目安です。進行状況に応じて大きく変わると思われます。ちなみに長めのロード中は主人公を歩かせたりジャンプさせられたり、TIPSが出たりと、手持ち無沙汰な時間を可能な限り無くそうとしているようです。
確かにロードはそこそこあり頻度も多いのですが、イベント間の短めのロードなどは一度に全部読み込んで長く待たせるよりも小出しにして一度のロード時間を短くする工夫だと思われ、好感が持てます。
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