Banners of Ruin(バナーオブルイン: 破滅の戦旗)

レビュー
出典:My Nintendo Store

動物たちが戦う、初見殺しデッキ構築型ローグライクゲーム

 本作は、パーティー制や装備などの要素を盛り込んだデッキ構築型ローグライクゲームです。このジャンルは本サイトでもレビュー済みの「Slay the Spire」(以後StSと表記)が代表的かつ王道ですので、両作品を比較しながらレビューを行います。

ゲーム概要

 動物(正確には獣人)が住む世界が舞台となっており、主人公の一族である「ブラックフット」が凶悪な敵「エンダー家」から攻撃を受けてしまったため反撃する、というストーリーになっています。流れ的には街の中に入って様々な敵と戦い、あるいは協力者の支援を受けながら最終的にエンダー家の首領を打倒するというものですが、ゲーム中あまりストーリーを意識する事はありません。

 主人公は二人組から選ぶことになります(設定で一人旅もできます)。デフォルトでは熊と鼠(をモチーフとした獣人)。イメージ通り、熊は打たれ強く、鼠は手数で勝負というキャラになっています。
 ゲームが進んでいくと毒攻撃を得意とするイタチ、他のメンバーの武器や才能(後述)を使う事が出来る狼、罠を作ることができる兎(この世界では狩る側らしい)、そしてバリゲートを作る事の出来るビーバーの6種族を仲間として使うことができます。
 ゲーム画面を見て頂けると分かると思いますが、動物が主人公とは言ってもかわいい系ではなく、リアル寄りの造形となっています。ゲーム中も殺し殺されの割と殺伐としたものになっているので、凄惨さを薄めるために動物モチーフとしたのかも知れません。

敵も味方もみんな獣人(左側が味方。初期キャラの熊と鼠)

 道中では三つの選択肢から選んでイベントを起こしていきます。選択肢には1~2のカウンターが設定されていて、選ばれなかった選択肢は数字が減り、0になると消滅します。これにより、報酬を求めて強敵と戦う、身の危険を感じてやり過ごす等の駆け引きが産まれます。
 3層に分かれていて、それぞれの層の最後にボス戦が控えています(この流れはStSそっくり)

道中の画面。三つの選択肢から最適なものを選ぼう


 メインとなる戦闘はStSと同じシステムですが、何よりも最大6名のパーティー制であること、また、カードの行使に必要なスタミナがメンバーそれぞれに存在する事が最も大きな違いとして挙げられます。
 パーティー制については単に戦う人数が増えるだけでなく、立ち位置を変える事で敵の攻撃を回避できたり、敵を強制的に移動させて行動を封じたり罠にかけたりと、StSとは一味違う戦略が味わえます。人数が増えてくると総スタミナが増えるのでほとんどのカードが行使できるようになり無駄が無くなる一方、空きスペースが無くなるために誰かしら敵の攻撃を受けることになる、というジレンマが生じます。

その他にも大きな違いが存在します。以下にまとめます。

1.カードを行使するコストにスタミナと意思の二種類存在する。
 スタミナは毎ターン回復するが、意思は自動では回復しない
2.各キャラは種族ごとの特殊スキルを持ち、意思を消費すればいつでも発動できる
3.敵も味方もガードがターンで初期化されず、累積する(StSで言えば常時バリゲート状態)
4.敵パーティーは一ターンにつき前列、後列のどちらかしか行動できない(例外あり)
5.各メンバーが武器(盾を含む)と鎧を持ち、武器と盾は装備しているとカードとして使用できる
6.レベルアップの概念があり、キャラが成長する(最大体力、スタミナ、意思が増える)
7.キャラの成長に合わせて才能とパッシブスキルを取得する。
 才能はカードとして使用できる
8.カードをデメリット付きの攻撃カードに変える「破壊」という概念がある
9.アップデートは特定の効果をカードに追加するタイプ。メニューで付け替えが自由に行える

他にも存在しますが、上記だけでもStSとは色々違う事が分かります。

良い所

位置取りなど、パーティー制ならではの戦略性の高さ

 ひと目見てわかるStSとの大きな違い、パーティー制。ひととおり遊んでみて、独自の戦略性が必要な良い調整が行われていると感じました。

 前述の通り敵パーティーは一ターンにつき前列、後列のどちらかしか行動できません。
 そのため、前列が攻撃のターンに前列の敵を何らかの方法で後列に移動させると、その敵はこのターンで行動できなくなります。ボスであろうとそのターンでは完全に無力化できるので、非常に有効な戦略となります。(ただし、一部敵は「移動無効」の能力を持っています)

 逆に、敵の攻撃予測位置から味方キャラを移動させて攻撃を回避する事もできます。ただし、味方が前列後列で一直線に並んでいる場合、前列が避けても後列に攻撃が当たってしまうので注意が必要です。

 このように、厄介な敵の行動をいかに阻害できるかが非常に重要な要素になっています。最初は独特のシステムなので慣れないかもしれませんが、完璧な位置取りで敵に一切行動させずに倒す事が出来るようになってくると本ゲーム独特の楽しさが味わえます。

優秀なシナジーで豪快な戦闘が楽しめる

 StS同様、本作も様々なバフデバフが存在するのですが、その組み合わせ次第ではとんでもない威力を叩きだす事ができます。
 分かりやすいのは「突撃」というバフで、これは攻撃カードに突撃の値を上乗せする事ができます(一度使うと突撃は消滅します)。それだけだと微妙なのですが、この効果は一つのカードに対して有効なので、複数攻撃できるカードで使うと非常に効果的となります。

 例えば初期カードである「ラッシュ」は1ダメージ×3回で合計3ダメージという非力な効果なのですが、突撃10の状態で使えば1+10=11ダメージ×3回で合計33ダメージと、同一カードとは思えない攻撃力となります。
 デフォルトキャラである鼠には種族スキルとして「攻撃が当たった数だけ突撃3を得る」という能力が存在し、他にもレベルアップで4回攻撃のカードを入手できたりと、突撃を効果的に使えるキャラとなっています。様々な方法で突撃を集めて強敵を複数回攻撃カード1枚で仕留める、という戦いが出来るようなると、戦闘が楽しくなってきます。

 他にも極めて厄介なデバフである「流血」(後述)を逆手にとって回復手段にしたりと、バフデバフを絡めた様々な攻略手段を考えることができます。

種族ごとの個性が明確に分かれている

 上記で鼠の特性について触れましたが、本作で仲間に出来る6種族は体力やスタミナ、意思などのステータス成長率は同じものの、種族スキルやレベルアップで覚える才能やパッシブスキルにより、個性がきちんと分かれています。
 例えばビーバーは種族スキルで空いているマスにバリゲートを設置できる上、専用の才能でそのバリゲートを回復したり強化したりできます。ただ、終盤になってフルメンバーになるとバリゲートを展開できるスペースが無くなるので、それを見越して序盤と終盤では戦い方を変えていかなければなりません。

 このように種族ごとに戦い方、育成方針が変わっていきます。取得できる才能やパッシブスキルはランダムなので、同一種族でも身に付けた能力次第で役割を変える事もでき、パーティー制ならではの構成の妙を楽しむことができます。

賛否両論っぽいところ

用語に慣れる必要がある

 本ゲームにおいては、前列、後列のような列をゲーム中は「ランク」と記述しています。また、行は「レーン」となります。(車道やボーリングの時のレーンの事ですね)
 このように、本ゲームでは英語圏では常識なためか説明されていない用語が幾つか出てきます。一度理解してしまえば問題無い事ではあるのですが、初見では戸惑う事と思います。

 他にも、本ゲームにおいてかなり重要なデバフである「流血」と「毒」については、しっかりとその違いを認識しておく必要があります。
 「流血」はガード無視で体力に数値分のダメージを与え、毎ターン値が1「減ります」
 「毒」は通常攻撃同様ガードで防げるものの、毎ターン値が1「増えます」

 と言うように、流血はどんなにガードを持っていてもダメージを受けますが、毒はガードで防げる。その代わり増える一方で自然消滅しない、という特性を持っています。
 なぜ毒をガードで防ぐことができるのか?という疑問はありますが、この違いは早々に抑えておく必要があります。
 ちなみに、本ゲームでの流血はStSにおいては毒の効果と同じですので、StSプレイヤーは特に注意が必要です。

初見では突破不可能と思われる敵の能力

 基本的にローグライクゲームは「死んで覚える」という側面があるので仕方ないのかもしれませんが、特にボスの能力は初見では打開不可能に思えるほど強力なものが多いです。

 先ほど「流血」について説明しましたが、終盤では初期状態でガード100越えの敵が出てきますので、ガード無視でダメージを与えられる流血は非常に有効、というより必須レベルです。
 ところがそれを見越したように「ガードが60を切るまでは流血を脆弱(被ダメージ増加)に変換する」という特殊能力を終盤のボスが当たり前のように持っており、流血を与えるには先にガードをある程度削らなければいけません。
 流血が便利だからと、敵のガードを崩す手段が少ない状態で戦いになると、流血が効く状態になる前に殴り負けてしまいます。

 ネタバレになってしまうので伏せますが真のラスボスは本当に卑怯な能力で、初見では恐らく一方的に打ち負かされるのでは無いでしょうか。
 幸いボスの種類自体は少ないので、きちんと対策して育成やカード集めをしていけば、結構安定して勝てるようになるのは救いです。

イマイチに思うところ

翻訳、視認性、操作性がひどい

 本ゲームの見過ごせない問題がこちら。最初に翻訳ですが、これは単純に「カードの説明が間違っている」という点。
 一例として、以下の画像を見てください。

PARSE_FAILEDと3出血を与える…?

 「PARSE_FAILED」は恐らく自動翻訳に失敗したのだと思います。実際の効果は「8ダメージと3出血を与える」でした。
 次に視認性です。以下の画像をご覧下さい。

読めない…

 基本的に英語を日本語に訳すと文章が長くなる傾向にありますが、そのことを考慮せずに縮小表示して無理やりカード内に収めようとしたのでしょう。

 これらは極端な例ですが、全体的に日本語翻訳や視認性に多々問題が見られます。
 翻訳についてはゲーム中にいつでも言語を切り替えることができるので、おかしいと思ったら英語に切り替えて原文の効果を確認する事をお勧めします。
 このゲームの購入費用に翻訳作業分も含まれている事を考えると、残念な気持ちになりますが。

 視認性は特にSwitch Liteでは問題になります。Switch本体に備わっている拡大機能を使う位しか対処方法は無いでしょうが、この拡大機能、あまり使い勝手が良いとは言えないんですよね。

 そして最後の操作性の問題。ターゲットの選択が左スティック、カードの選択が右スティック。そしてカードを出す時は「ZR」ボタン(Aボタンで出来る時もある)
 まずこれに慣れるのが大変です。
 そして、ターゲット選択も非常に操作しずらく、かつ分かりにくいです。これは口では説明しにくいのですが、自分が操作しようとしているキャラ、ターゲットに選択しているキャラなどの選択が難しく、慣れてきても時々ターゲットを間違える事があります。携帯モードではタッチ操作に対応しているので、その方が直感的で確実かも知れません。
 また、頻度は高くないですがクエスト中に文字送りが動作しなくなり、携帯モードで画面タッチする事で進むことがありました。その点でもタッチ操作向けの調整になっているのかなと思います。 

 あと、これは個人的な問題ですがZLボタンが種族スキル利用に割り振られており、うっかり押してしまう事があります。これもキャンセルできないので、回復のできない重要な意思ポイントを無くしてしまうと落胆が大きいです。

 一応のフォローですが、戦闘中に「終了」でタイトルに戻ってからコンティニューすると、戦闘の最初から同じカード順で再戦できます。ちょっとズルいですが、予期しない操作ミスで窮地に陥ってしまったなら、悔しい思いをするよりは再戦した方が良いかもしれません。

戦略がワンパターンになりがち

 ゲーム中入手できる鎧はいくつか有り様々な特色があるのですが、序盤を除き「優れた重装備」(毎ターンスタミナ減少の代わりにガード+)がほぼ唯一の選択肢です。終盤は敵の攻撃が激しすぎて弱めの防御カードは役立たずになり、この鎧が無いと前衛は即壊滅します。
 基本的に、装備集め=「優れた重装備」集めになってしまいます。

 また、装備や才能はカードとなって使用する事ができますが、これは反面、仲間キャラを雇う度にカードが数枚増える事でもあり、デッキの回転率が下がっていきます。そのため、これを考慮して道中のカード取得はかなり厳選する必要があり、毎回似たようなデッキになっていきます。
 少数精鋭で戦えばまた違うデッキ構成になるかも知れませんが、1ターンの行動が減ってしまって戦闘が長期化してテンポが悪くなってしまいます。

まとめ

 問題のある翻訳と操作性、高難易度と言うよりは初見殺し仕様のボス戦など色々壁がありますが、それを乗り越えれば楽しめる作品です。

 同じパーティー制デッキ構築ゲームとしては本サイトでもレビュー済みの「Roguebook」が有ります。
 私はRoguebookの完成度自体は評価しているのですが、Switch版は動作が重く、あまりお勧めできないレベルです。一方本作はいくつかの問題はあるものの動作は軽く、総合的にはこちらの方が楽しめたかなと感じました。
 ワンプレイは大体4時間程度でしょうか。道中は長くないのですが、後半敵のガードが上昇するために一回当たりの戦闘が長丁場となるため、全体として長い部類になります。

 なお、初回クリア後は真エンドの道が開け、道中特定のクエストをこなす事で真のラスボスと戦う事が出来るようになります。他にも誓約とチャレンジが追加され、様々な制約を受けた上でのゲームプレイも楽しめるようになります。(誓約は取得経験値が上昇し、チャレンジは達成後にカードが解放されます)
 このように、StSほどではありませんが一度クリアした後でも条件を変えて繰り返し遊べるようになっています。StSを一通りプレイしていて、パーティー制の戦闘やキャラデザインに魅かれるものが有ったらプレイをお勧めします。(最初のとっつきの悪さは頑張って乗り越えてください)

主なロード時間(演出による待ち時間含む)

計測対象待ち時間備考
起動からタイトル画面まで 約19秒起動後、タイトル画面が表示されるまでの時間
タイトル画面表示の演出はスキップ可能
ゲーム開始約9秒ルールや初期メンバー決定後、ゲームを開始した後に発生するロード
なお、中断からの再開はロード無し

 ゲーム中、ロードが気になる事はほとんどなく快適です。ただ、パーティーメンバーが増えていくにつれて戦闘の時間は増えるので、ゲームテンポ自体は速いとは言えません。

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