動作の遅さを我慢できれば良作のデッキ構築型カードゲーム
公式によると、Faeriaの開発チームとMagic: The Gatheringのデザイナーが参加しているデッキ構築型ローグライクカードゲームです。
デッキ構築型ローグライクカードゲームとはすなわち、本サイトでもレビュー済みのSlay the Spire(以下StSと呼称)ライクであり、戦闘中の画面およびシステムは非常に良く似ています。
カードゲーム部分のシステムは前述のStSのレビューページの説明を見てください。StSがデッキ構築型ローグライクカードゲームとして極めて王道なつくりとなっているため、StSとの違いを説明する方がゲーム内容を掴みやすいと思われますので、その観点でレビューさせていただきます。そのためStSのプレイ経験が前提となってしまいますが、ご了承ください。
また、高い難易度(周回)ではまだクリアできていませんので、高難易度をやり込む上で評価が変わる可能性があります。初回クリア~2、3周程度でのレビューとなります。
ゲーム概要(Slay the Spireとの違い)
「Roguebook」と名付けられた不思議な本の世界に閉じ込められてしまった冒険者たちが脱出するために戦いを繰り広げる、というストーリーです。
プレイヤーは最初は2人。ストーリー進行に応じて最終的に4人から選べ、DLCでさらに1人追加されます。3つの世界(3章構成の本という設定)のそれぞれのボスを倒し、最後の世界のボスを倒せばクリアとなります。
StSフォロワーではありますが、独自のポイントも存在します。まず最初に、大きく違う所を五点リストアップし、それぞれ詳しく解説します。
- 主人公2人のパーティー制+味方システム
- 探索時にマップを自由に移動できる
- カードにスロットが付いており、追加効果(ジェム)を取り付けられる
- カード削除の機会が少なく、カードを増やす事で成長するシステム
- 周回要素の違い
主人公2人のパーティー制+味方システム
StSは1人で戦いましたが、このゲームでは2人で戦う事になります。
カードは初期状態で1キャラにつき5枚(基本的な攻撃と防御が2枚ずつ+専用カード1枚)で合計10枚です。
戦闘時は前衛と後衛に分かれ、ダメージを受けるのは前衛のみとなります。ブロックも前衛のみに集約され、例えば1ターン中に前衛と後衛がそれぞれ6ポイントのガードを行った場合、合算して前衛に12ポイントのブロックとなります。
HPは個別に持つため、どちらかがHP0となって倒れても即ゲームオーバーとはならず、残った1人で挽回のチャンスがある事も特徴です。またHPは持ちませんが、戦闘中に一緒に戦ってくれる「味方」も存在します。(後ほど説明します)
戦闘開始時にどちらが前衛になるかは事前に決められます。そして戦闘中でも前衛と後衛の交代は可能になっています。典型的には後衛が防御をする事で交代します。防御以外のカードでも交代する場合がありますし、前述の「味方」の効果で交代する事も可能です。また、キャラクターによっては戦闘中に1度だけ任意のタイミングで交代する能力を獲得する可能性もあります。
交代は本ゲームの重要なシステムです。前衛や後衛の時しか使えないカードや、位置によってコストが変動するカードもあります。キャラクター自体も前衛に居ると追加効果が発生したりするので、どのようにポジション取りをするか考える必要があります。
StSでは敵の強力な攻撃のターンに十分な防御カードを引けずゲームオーバー、という事もよくありますが、本ゲームではHPの高い味方や回復機会の多いキャラで引き受けるという選択もできます。
また、この2人以外にも「味方」を戦闘中に召喚する事が可能です。これはStSで言う所のパワーカードやディフェクトのオーブに近い役回りで、様々な効果を発揮してくれます。
典型的なのはターン終了後に表示されている数字(気力)の分だけ敵にダメージを与えてくれる味方です。他にも気力を持たず毎ターン何かしらの恩恵(カードなど)を提供してくれたり、回数限定で交代できたりと攻撃面でも戦術面でもサポートを受けられます。
慣れてくると2人の相性を活かしてラスボスですら楽勝の状態までパーティを強くすることができます。あくまで個人の感想ですが、構築が上手く出来た場合はStSよりも事故率は低いように感じます。
探索時にマップを自由に移動できる
見た目でのもう一つの大きな違いは、探索画面が自由に歩けるという事です。
マップはヘックスで表現されるのですが、スタート時点ではボスへの一本道と一部のランドマーク以外は灰色で何が隠れているのか分かりません。
プレイヤーはこのマップを探索するため、ブラシとインクを使います。ブラシはパーティーの居る地点の周辺を円形状に、インクは直線状にマップを明らかにできます。明らかにした部分は自由に歩くことが出来ます。この点が一本道だったStSと大きく違う点です。
つまり、敵(StSと同じく通常の敵と強い代わりに報酬の多いエリートが存在します)を見付けても先にカードやアイテムを集めてから戦う事が出来ますし、商人(スタート地点に居る)にも好きなタイミングで何度でも寄る事ができます。
ただし、ブラシやインクは有限なので、敵を倒して獲得する必要があります。(StSと違い、カードはマップ上に点在する「知恵の金庫」からゴールドと引き換えで入手します)
なお、ゲーム中特に説明は無かったのですが、ブラシで塗る範囲はBボタンで確認可能です。効率よくマップを探索しましょう。
このため、StSとは大きくプレイ感覚が異なります。人によって好みはあるかと思いますが、StSのお店で持ち合わせが無くて欲しいカードやレリックを買いそびれて悔しい思いをした人には良いかもしれません。
カードにスロットが付いており、追加効果(ジェム)を取り付けられる
StSでのアップグレードに近いシステムとして、カードに探索で見つかる宝石「ジェム」による追加効果を与えることができます。
このシステムも非常に特徴的で、例えばブロック値+4のジェムをブロック値6の防御カードに付与すれば10となり、なかなか頼れるカードになってくれます。一方で攻撃カードに付ければ攻撃しつつブロック値を増やすという攻防一体の性能にする事もできます。長所をより伸ばすのか、防御カードが無かった時の保険とするのか、色々な組み合わせを考えられます。
またジェムは戦闘中に付与する事も可能で、あと少し攻撃力があれば倒せるとか、ブロック値があれば生き残れるとか、そういった緊急避難的な使い方も可能です。(当然空きスロットが必要です)
さらに「フラッシュジェム」という一回使ったら消滅するジェムもあります。こちらはスロットに関係なくカードに付与できるので、StSで言えばポーション的に使うことが出来ます。
特に有用なのが「残留」というターン終了時に捨てられずに残ってくれる効果(StSで言う「保留」)を持つジェムで、使う場面を選びたいカードにこれを付与すれば使い勝手が大幅に上がってくれます。
カード削除の機会が少なく、カードを増やす事で成長するシステム
StSではカードを持ち過ぎることは有用なカードを必要な時に引けない等の弊害があり、弱いカードは積極的に捨てたり交換する等、いわゆる「デッキ圧縮」が推奨されるバランスでした。
一方本ゲームでは捨てたり交換する機会がかなり少なく、捨てるのは一部イベントのみ、交換はマップの探索によって見つかる錬金術師小屋でしか行えません。基本的にはカードは増える一方です。
しかし、本ゲームではむしろカードを増やしていく事にメリットがあるバランスにしており、デッキの枚数が一定枚数に達するたびに「才能」という能力を取得することが出来ます。取得できる才能はランダムで欲しい才能が必ず取得できるとは限りませんが、デッキのカードが増えるデメリットを十分補える才能もあるため、そういった才能を目指してカードを集めた方が良いようです。(ただし、高難易度になったらその限りではないかも知れません)
カードを追加で引く効果を持つカードはStSに比べて多め、かつ引ける枚数も多い印象で、ジェムの方にもカードを引く効果を付与できる物もあるため、意識的にカードを選んでいけば、回転率は上げやすい印象です。
周回要素の違い
StS同様、このゲームでも最初のクリアがいわゆるチュートリアルで、その後は段階的に難易度を上げて周回する方式になっています。
プレイが終了すると選択したキャラクター(とパーティー自体)に経験値が加算され、レベルアップすると新しい専用カードやアイテム、ジェムが解放されます。ここまではStSとほぼ同じです。
本ゲームの周回要素で特徴的なのは2つあり、1つはプレイ中に収集した「ページ」でツリー状になっている要素を解放できることです。これによりレアカードの出現率やキャラクターの最大HP、探索マップで登場するイベントの追加など、攻略が有利になる要素を解放できます。
全部集めるのはかなりのページ数が必要となるため、周回時のモチベーションにもつながります。
解放した要素は無効にすることも出来るので、よりストイックな方は高難易度を各種要素を無効化した初期状態で挑むのも面白いかもしれません。
もう1つが周回時の難易度設定で、StSでは基本的なシステムは変わらず、敵が強くなったり初期HPが減ったりなど、純粋に難易度が上がっていく仕様でした。
しかし本ゲームではマップの探索の仕様が変わるなど、敵が強くなる以外の難易度上昇も存在し、それぞれにコストが設定されています。周回時は与えられたコストの中から自由に組み合わせた難易度で挑戦する形で、一風変わった難易度設定となっています。(例えば3週目の時は最大コスト3なので、コスト3の難易度を1つ / コスト2を1つ+コスト1を1つ / コスト1を3つ、から選択する事になります)
良い所
StSとの違いが概ね良い方向に調整されている
ゲーム概要で5つの違い(もちろん、それ以外にもあるのですが)を説明しましたが、いずれも良い調整に感じました。キャラクター2人と言うのも最初は戸惑いましたが、慣れればアタッカーとサポートでうまく役割分担して安定して戦う事ができ、そういったシナジーを考えるのも楽しいです。
キャラクターもDLC込みなら5人で、10種類の組み合わせがある事になるので長く楽しめそうです。
また、特にジェムのシステムは気に入りました。StSでは使えるカードと言うのは決まっていて大体集めるカードの方向性は決まってしまうのですが、ジェムによってカードに性格付けができるので、例えばカードのコストを下げる系のジェムを手に入れたら普段は使わないような高コストのカードを入手してみるなど、ジェムをいつ使うかも含めて戦略として考えられて奥が深いです。
しっかり作り込まれている
StSと比べて、戦闘シーンはかなり豪華で派手です。それだけでなく複数の敵が連結されていてお互いに影響を与えるなど、様々な趣向を凝らした敵も出てきます。
また、探索の時に見つかるインクやジェムですが、所持数に限界があります。持ちきれなくなった時は消えたりせずにその場に残るので、後で空きが出来たら拾いに戻ることができます。マップクリア時の報酬で所持数オーバーになる事もありますが、ちゃんと次のステージの入り口に置かれるという、なかなか気の利いた作りをしていて感心しました。
賛否両論っぽいところ
強力過ぎる効果が存在する
StSで言う毒に相当する効果で、出血というものがあります。ターン毎に出血の数値分ダメージを受けるのですが、StSでの毒が1ターン毎に1ずつ減衰するのに比べて、出血はなんと減衰せず、戦闘中ずっと残ります。しかも追加で出血を受ければ累積します。
最初の世界のエリートボスがいきなり出血の使い手なので、最初はわけも分からず削り殺されました。残念なことに、攻撃をブロックしても出血の効果は付与されるのです。
最初は理不尽に思ったのですが、それは裏を返せばこちらも敵のブロック状態に関わらず出血を付与できるということ。しかも治療できないので、僅かな出血でも戦闘中ずっと敵のHPを削ってくれます。今のところ、基本的には出血に頼ってクリアしています。
それ以外にも「対象の敵に666回までクリティカルヒットが発生する(=実質的に戦闘中ずっとクリティカルヒット)」という強力なカードも存在します。クリティカルヒットは2倍のダメージとなるので、ものすごい勢いで敵のHPが減っていきます。
それ以外にもたくさんあって書き切れないのですが、StSに比べてボス戦すら消化試合になるような優秀な効果が多いように感じます。これでも高難易度では難しいのかも知れませんが。
逆に、運悪くそういったカードなり才能を入手できないと、2つ目の世界くらいから手も足も出なくなってしまいます。
探索の自由度が高い分、時間がかかりやすい
マップ探索ではブラシやインクの量に限りがあるので、どこに使えば効率が良いか考える必要があります。また、ジェムもどのカードに付与するのが一番良いか、あるいはより強力なカードが入った時のために使わずにおくのが良いのか悩みます。
また、商人はマップの入り口にいるので、ある程度お金が貯まったら買いに戻ることになります。
そんなこんなで、探索で様々な事が出来る反面全体的に時間がかかる仕様になっています。私のプレイでは一周クリアで大体3時間くらい。毎回結構悩んでいるので、慣れればもっと早いとは思いますが、StSと比べると、ワンプレイにかなり時間が掛かってしまいます。
イマイチに思うところ
戦闘中の動作が遅い。不安になるくらい遅い(2022/6/10追記:ある程度改善しました)
全体的にロードが挟まれたり、マップ移動が遅かったり(ちなみにマップ移動速度を2倍にするアイテムは存在するのですが、そんなアイテムを用意するよりオプションで変更可能にすべきだと思います)と全体的に少し遅い感じはあるのですが、何と言っても問題は戦闘です。正直なところ、この点でStSには大きく差を付けられていると感じます。
最初の内はまだ良いのですが、後半になってくるとカードを選んだあとに実際に使用されるまで、ひどい時には数秒掛かります。あまりにも待たされるので、選択したかどうか心配になってしまうくらいです。
正直この点は残念でなりません。見栄えに拘り過ぎたせいかは分かりませんが、一番大切なゲームテンポを悪くしてしまうのは避けて欲しかったところです。オプションで戦闘シーン簡略化でも良いのでアップデートで付けてくれればかなり評価も上がると思うのですが。
後半になって戦闘中のゲームスピードが遅くなる点ですが、2022/6/9のアップデートにてある程度改善されました。完璧とまでは言えませんが、一枚カードを出すのに数秒掛かっていた処理が1秒程度で済むようになり、ある程度我慢できるレベルになりました。(ロード時間については改善されていないようです)
アップデート後に初めて遊んだ方にとってはそれでも遅いと感じるかも知れませんが、メーカーがきちんと現状を把握して改善に努力したことは評価して良いと感じます。
日本語訳がちょっと怪しい
プレイに支障をきたす程ではないのですが、日本語訳に少し難があります。意味は間違っていないのですが、もう少し考えて欲しいかなと。
具体的な例として、「引く札」という言葉。これは「山札」の事です。それからこれまで出てきた「味方」ですが、そもそもパーティーのメンバーも味方なわけですから、訳としてはちょっと不適切。普通に「コンパニオン」とかで良かった気がします。
マップ探索の運要素が強い
各世界のマップは結構広いので、初期所有分に加えて敵を全滅させて得られるブラシやインクすべてをもってしても、マップの全開放は不可能です。
各世界には初期状態で配置されているエリート以外にも隠れているエリートがおり、アイテム入手のためにはぜひ倒したい所なのですが、運が悪いと会う事ができません。また、錬金術師はカードを交換してくれる優秀な人物で是非会いたいところですが、これも運です。
仮に場所が分かってもマップの端だと絶対に辿り着けなかったりと、この辺は何らかのフォロー、例えば商人が追加のブラシなりインクなりを売ってくれればよかったなと思います。
まとめ
StSが非常にシンプルで、それはそれで良いのですが、ストイックすぎるのでもうちょっと追加要素も欲しいな、と思う事もありました。本ゲームはチーム制やジェム、自由度のある探索と、なかなか良い感じの味付けが行われていて、それが上手くはまっている良作だと思います。
しかし、それも戦闘中のゲームテンポの悪さが台無しにしてしまっている感があります。こればかりは実際に体験してみないと分からないと思いますが、StSでは実現できない別方向の進化を見せてくれているゲームだけに、かなり残念なところです。
アップデートでもあれば別ですが、現時点ではStSを遊んだ事のある方には覚悟して頂くべきレベルの弱点となります。
主なロード時間(演出による待ち時間含む)
計測対象 | 待ち時間 | 備考 |
---|---|---|
起動からタイトル画面まで | 約40秒 | 起動時、毎回コントローラーの確認画面が表示され、操作が必要 ローディング画面後にメーカーロゴ表示、ここからはスキップ可能 メーカーロゴのスキップが早すぎると何故かメニューが英語表記になる(その後のプレイはちゃんと日本語になる) |
ニューゲーム開始 | 約30秒 | 主人公選択画面が表示されるまで |
タイトル画面からロード | 約15秒 | 前回プレイ中断状態から「続ける」を選択して、マップ画面が表示されるまで |
戦闘突入時ロード | 約8~15秒 ※24秒 | マップ上で敵シンボルと戦闘を選んでから戦闘画面に切り替わるまで なお、戦闘終了後にマップに戻る時はロード無し ※ゲーム起動後の最初の戦闘時のみ、普段よりロード時間がかかる模様 |
起動直後やゲーム開始時のロードは仕方ないのですが、戦闘に入る時のロードは頻繁に起きるため、少しストレスです。ただ、前述のように戦闘中の動作の遅さがある程度改善されたので、以前よりも快適度は上がっています。
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