丁寧な作りのファンタジー版ファミコンウォーズ
任天堂シミュレーションゲームの名作、「ファミコンウォーズ」にインスパイアされたと思われる戦略ゲームです。中でも、雰囲気は「ゲームボーイウォーズアドバンス」に似ているように感じます。
この手の戦略ゲームには同じ任天堂で言えば「ファイアーエムブレム」系列のようなユニットが固有のタイプと、本作の「ファミコンウォーズ」系列のようにユニットを生産して戦うタイプに分かれます。
個人的には後者の方が好きなのですが、ファイアーエムブレムシリーズの方が作品が多く売り上げも大きい事から見ても、どちらかと言うと前者の方が日本では人気のようですね。
ゲーム概要
ストーリーとしては、突然魔物に襲われて国王が敗死し、その後を国王の娘マーシアが引き継いで魔物の討伐に向かうという、言ってしまえば良くあるストーリーです。ただ、味方陣営に犬が居たり、人間以外の種族とも共闘したりと、ファンタジー的な雰囲気は悪くないと感じました。
また、(これもありがちと言えばそうですが)単なる魔物討伐ではなく、その背後に何かしらの存在があり、主人公一行は否応なく巻き込まれていく事になります。
本ゲームの特徴を以下に示しますが、最初に触れた通り「ファミコンウォーズ」との類似性が多く見られます。ご存知の方であれば、確かに似ていると感じるでしょう(もちろん、いくつか違いもあります)
- 最初はリーダー(司令官)と初期配置ユニット、施設(本拠地・生産拠点・都市)を持った状態
- 司令官のHPがゼロになったり、本拠地を占拠されると敗北
- 初期配置以外のユニットは資金を使って生産する必要がある
- 中立若しくは敵の都市や生産拠点を歩兵タイプで占領する事ができ、収入や生産拠点を増やせる(生産拠点を占領しても収入は増えないので注意)
- 中立都市は無傷で手に入るが、敵の都市は攻撃して中立状態に戻す必要がある
- ユニットは陸、海、空の三種類に分かれ、お互いに得意不得意が存在する
- 司令官は撃破や被撃破でゲージが溜まり、最大まで溜まると固有の技能(グルーヴ)を使える
- ダメージを受けたユニットの回復は都市の隣で資金を使って行い、回復で行動を消費するだけでなく、その分都市自体もダメージを受ける(合流による回復は無し)
もちろん、「ファミコンウォーズ」に似ていつつも、独自の要素はしっかり盛り込まれています。中でも感心したのは、特定の状況で発生するクリティカルです。
例えば槍兵なら「槍兵同士が隣接した状態でクリティカル」、弓兵なら「移動せずに攻撃のみ行うとクリティカル」などです。
この仕様により、ただ強いユニットを生産して戦うだけでなく、クリティカルを活用して弱いユニットを有効活用し戦力差を覆していく事もできます。
ゲームモードも豊富で、上記のストーリーに従って物語を進めつつ戦っていく「ストーリー」、ストーリー中で登場したリーダーを主人公にして5連戦を行う「アーケード」、詰め将棋のように特定状況下から勝利条件を満たす「パズル」、オフラインまたはオンラインで対戦する「マルチプレイ」、そしてマップどころかストーリーまで作れる「クリエイト」、その上2020年にDLCが無料で提供されサブストーリーまであったりと、もの凄いボリュームとなっています。
良い所
戦略ゲームの好きな人が丁寧に作ったと分かる作り
遊んでいて、「ああ、この作者は戦略ゲームが好きなんだな」と分かる所が随所に見られます。ユニットには得意不得意がしっかりと設定しており強力なユニットだけを生産すれば良い、というバランスにはしていない事(一部例外あり、後述)や、CPUの思考ルーチンが良く練られていて、苦手なユニットの攻撃範囲に入らないように立ち回るのはもちろん、前述のクリティカルもできるだけ狙ってくるような動きをします。
ドットキャラも種族ごとにユニットの見た目が変わったり、動きも実に味のあるもので、あらゆる面で妥協していない作りになっています。個人的に凄いと思ったのはパズルモードで、これはどの面も非常に良く考えられており、ユニットの特性やリーダーのグルーヴを駆使しなければ解けない構成で、これだけでも全クリアにはかなり時間が掛かるでしょう。私はいくつか解けずに残っている問題が残っています。
好きな人が好きなゲームを作るという、インディーズゲームの模範となるような作品です。
特殊能力「グルーヴ」が楽しい
司令官はDLCも含めると18キャラも存在し、アーケードモードですべての司令官を主人公として戦う事ができます。使う司令官によってユニットの性能が変わりはしませんが、前述のように戦闘によって溜まっていくゲージが最大になることで固有技能「グルーヴ」が使えます。
これは例えば主人公のマーシアなら王道らしく「周辺の味方ユニットの体力を回復する」という能力ですが、本ゲームはユニットの回復が都市の体力を消費し、かつ資金が必要なのでそう簡単に回復できません。なので一切コスト無しで回復できるのは非常に強力な効果です。
他にも壁を作って敵司令官を逃げられないようにして袋叩きにしたり、ゴルフのようにユニットを弾き飛ばして水中に沈めて即死させたり、使い方によっては一気に戦況を有利にできます。グルーヴによってはユニット生産の方針も変わってきますので、同じ面でも司令官が違うと新鮮な気持ちで遊べるでしょう。
賛否両論っぽいところ
生産の仕様による低コストユニットの不遇化
本ゲームでは、ひとつの生産拠点で作れるユニットは1ターンにつき1ユニットだけです。例えばファミコンウォーズの場合、資金と空いてる場所さえあれば無制限です。(つまり、1ターンに最大4ユニットまで生産できる)
このような制限は恐らくお互いに大軍になって戦闘時間が長引かないバランスを求めた結果ではないかと感じます。確かにファミコンウォーズの場合、大きな戦場で戦況が膠着すると、打開までにかなりの時間が掛かる事があります。
このようなバランス調整はゲームテンポの向上には間違いなく効果を上げていますが、「低コストのユニットは壁として活躍する」というこの手のゲームでは定石と言える戦法が取りにくくなっています。そのため一度戦局が傾きだすと完全なワンサイドゲームになります。
特にこの手のゲームに慣れている人は、好みが分かれるところかも知れません。筆者も低コストユニットを大量生産して厳しい戦況を耐え忍ぶのが好きな方ですので、最初は少し戸惑いました。
軍艦が強すぎる
クリティカルの概念があるため、低コストユニットでも活躍できる事を書きましたが、それでもやはり高コストユニットは強いです。その中でも海最強のユニット、軍艦は群を抜いて強いといか、バランスブレイカーな気がします。
陸最強のゴーレムと空最強のドラゴンも確かに強いですが、直接攻撃という性格上、上手く囮で引き寄せて弱点の遠距離射撃(ゴーレムなら投石、ドラゴンならバリスタ)を撃てば何とかなります。
ところが海最強の軍艦は遠距離攻撃で、あろうことか「移動後遠距離攻撃可能(移動力8+射程2~4、ただし空ユニットには攻撃できない)」という凄まじい特性を持ちます。その上クリティカルも「海岸地形から打つとクリティカル」と言う、地形次第ですが意外と簡単に達成できる条件です。
他に移動後遠距離攻撃可能なユニットは
・弓兵(移動力3+範囲2~3、全体的に攻撃力が低い)
・ハープーン艦(移動力4+範囲3~6、陸ユニットには攻撃できない)
だけですので、戦場の主戦力たる陸ユニットに毎ターン位置調整しつつ強力な攻撃を行える軍艦はかなり強く、特に生産拠点が海に近ければ生産即撃破、という敵が可哀そうになるほどの一方的な蹂躙が可能です。(そもそも生産拠点に射程が入るなら直接生産拠点を叩ける)
なお敵CPUは軍艦の使い方はあまり上手ではありませんので、実際に相手にしてみるとそれほどの脅威にならず、この辺りはプレイヤー有利です。もちろん海の地形が必要なので多少強くても問題無いかもしれませんね。腕に覚えがあるなら生産禁止縛りを入れても良いかもしれません。
イマイチに思うところ
難易度ハードの設定
アーケードモードはイージー、ノーマル、ハードの三段階の難易度があるのですが、この難易度の違いが「初期資金の違い」+「本拠地および都市の収入の違い」です。
後者の収入の違いが問題で、ハードの場合こちらが本拠地または1都市について100であるのに、敵陣営はなんと倍の200に設定されています。
プレイヤーは本拠地と5都市を占領してようやく収入600なのに、同じ条件のCPUは収入1200となり、これは陸最強のユニットであるゴーレムを毎ターン生産できてしまう事になります。これではあまりに不利です。
都市の多い大きめのマップであればこちらも収入はそこそこあるので戦い方次第で何とかなりますが、狭いマップでは敵に都市を取らせない、ゴーレムを作られない事を祈るなど、よほど上手く立ち回らないと厳しいです。ハードと言っても、このような露骨に不公平な条件にするのではなく、初期資金と初期配置ユニットの調整位にして欲しかったところです。
まとめ
ファミコンウォーズライクでこれ程の完成度を誇る戦略ゲームは、Switchにはそれこそ海外で2022/4/8に発売される「ゲームボーイウォーズアドバンス1+2」くらいしか思いつきません。残念ながら日本語版の発売があるかどうかは不明です。
…と思っていたら、2022/3/10時点で海外でも発売延期が発表されてしまいました。ロシアのウクライナ侵攻が関係しているようで、海外版であっても遊べるのはまだ先になりそうです。
ただし、あくまでも戦略ゲームとして完成度が高いという意味です。本レビューでも終始ファミコンウォーズとの比較をしていたように、ある程度このジャンルに慣れている方にはお勧めできますが、そもそも戦略ゲームが嫌いだという人を振り向かせるほどの間口の広さは無いと思います。
あくまでこの手のゲームが好きという人に向けて作られたゲームであることは十分承知しておく必要があるでしょう。
主なロード時間(演出による待ち時間含む)
計測対象 | 待ち時間 | 備考 |
---|---|---|
起動からタイトル画面まで | 約12秒 | 起動後、タイトル画面(メニュー)が表示されるまでの時間 最初のメーカーロゴから始まる一連のオープニングのスキップは ボタン長押しとなっている つまり、起動後にずっとボタンを押していれば最速で起動できる |
起動時のロード以外は特に待たされる事は無く、当然の如く戦闘アニメーションオフやユニット移動の高速化などがオプションで設定でき、快適性においては至れり尽くせりです。
やはり開発者は分かっている人なんだろうなと感じます。
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